導入事例インタビュー

「内製化には、
 システムや
 チームの在り方を
 知ることが大事です」

株式会社ベネッセコーポレーション
グループシステムエンジニアリング部 エンジニアリング1課
和田健太郎氏(左) 梅村義則氏(右)

2024.08.23

株式会社ベネッセコーポレーション 様

ベネッセ、アジャイル開発の舞台裏 教育現場の“激変”にどう対応した?

 不確実性が高く、ビジネス環境が激変する現在。刻々と変わる状況に対応すべく、企業は機敏に動ける組織づくりが必須になった。事業の機敏性を意味する「ビジネスアジリティー」の獲得は、今や事業成長に欠かせない。

 市場のニーズを素早く取り込んだ迅速な意思決定、あるいは柔軟な軌道修正を実現する手法の一つが内製化だ。システム開発においては、外注から内製への移行が機敏性を獲得する大きなカギを握る。ひいては事業の成否を分けるため、内製化によるスピードの獲得は重要だ。

 通信教育「進研ゼミ」など教育、生活分野でさまざまなサービスを手掛けるベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)は、そんな時代の変化に合わせた組織改革を推進している企業の一つだ。政府が掲げるGIGAスクール構想やコロナ禍によるリモート授業の導入など、教育現場も日々変化している。この動きに対応するためにベネッセはどのような改革を進めたのだろうか。

(左から)ベネッセ グループシステムエンジニアリング部
エンジニアリング1課 和田健太郎氏、梅村義則氏

10人未満で全システムをカバー――ベネッセが求めたアジャイルな文化

 ベネッセがシステムの内製化とアジャイル開発に本格的に着手したのは2019年。文部科学省がGIGAスクール構想を発表するなど、教育現場で大きな動きがあった年だ。

 ベネッセの梅村義則氏(グループシステムエンジニアリング部 エンジニアリング1課)は、「DX推進の風潮が強まる中、ベネッセでもシステム開発の内製化とアジャイルな文化を醸成する機運が高まっていた」と振り返る。

 「私が入社した2019年時点で社内にはすでに膨大な量のシステムがあり、10人に満たない社内の開発メンバーだけでは全てのシステムをカバーできていませんでした。お客さまの要望にクイックに対応し、顧客満足度を高めるためにも内製化は必須と考えていました。

 内製化で組織がより機動的になれば、営業や企画担当とも密に連携可能です。同時に、短い期間で要件定義から開発、テスト、リリースまで繰り返すアジャイル開発に移行することで、お客さまのニーズにより早く対応できるようになります」(梅村氏)

人材も知識も足りない! それでもプロジェクトを成功させるには

 しかし、理想的な組織体制の構築には人員の確保や社内調整など対応すべきことが多く、時間を要するのが一般的だ。「ベネッセ社員だけですぐに内製化やアジャイル開発を進めることは、現実的ではありませんでした」と梅村氏は続ける。

 「社内メンバーだけでは人員も知識も足りず、内製化まで伴走してくれるパートナーが必要でした。そこでお声掛けしたのがTDCソフトさんです。私が担当している小中学生向けの学習用サービス『ミライシード』のアジャイル開発をお願いしたのが協業のきっかけです。当時は、TDCソフトのメンバー3人に参画していただきました」(梅村氏)

2024年4月に大幅アップデートを開始したミライシード。
教育現場の声を反映し、アジャイル開発を進めている

 ミライシードはさまざまな学習場面に対応した小中学校向けタブレット学習用オールインワンソフトで、全国の小中学校9000校超、334万人以上の児童・生徒(2024年3月時点)が利用している。ベネッセがTDCソフトに声を掛けたのは、GIGAスクール構想などに対応するためのサービス拡充を目指したものだったが、コロナ禍で状況が一変してしまう。

 「コロナ禍でリモート授業が導入された結果、想定より多くの学校でミライシードが活用されるようになりました。朝の始業時間にログインが集中するなど利用の波が激しく、レスポンスの悪化など、正常な活用に支障を来す複数の事象が起きるようになったのです。そのため、まずはシステムの改修に取り組みました」(梅村氏)

 毎週のようにミライシードの修正版をリリースする日々が1年間続いたと梅村氏は振り返る。しかも、日中は生徒が使用するため各自治体との協議の上、改修作業は午後10時から翌午前6時までしかできなかった。

 「TDCソフトさんに協力を仰ぎ、シフトを組んで夜間対応をお願いしました。社内メンバーだけではこの危機を乗り越えられなかったはずです。コロナ禍が落ち着き始めた2023年ごろから、性能改善と同時にアジャイル化にも着手しました」(梅村氏)

自分たちだけでは気付けなかったUI/UX改善

 使用感を左右するUI/UX設計も重要だ。学校向けサービスであるため、より直感的で理解しやすい操作画面が求められる。ベネッセで高校生向けの進路情報サイト「マナビジョン」を担当している和田健太郎氏(グループシステムエンジニアリング部 エンジニアリング1課)は、UI/UX設計の面でもTDCソフトのアドバイスに助けられたという。

 「私が担当しているマナビジョンでは、Webサイトに掲載している学校の資料請求画面までの動線や問い合わせフォームの入力など、いかにシームレスに最後まで進んでもらえるかが重要です。TDCソフトさんは業務要件を理解した上で、ユーザーの使用感などをイメージして細かくアドバイスをくれました。

 学校の通信環境を考慮してAPIコール数を減らすなど、全体感を持った設計支援をしてくれました。つい最近、新しいバージョンをリリースしたのですが、利用している生徒さんから好評を頂いています」(和田氏)

高校生向けの進路情報サイト「マナビジョン」。TDCソフトと共にアップデートを続けている

困難を乗り越えるために――ベネッセの選んだ手段とは?

 利用者の急増による想定外の出来事に見舞われながらも、パートナー企業と共にシステム改修を進めたベネッセ。どのような点に着目してパートナーを選べばよいのだろうか。和田氏は「システムの古さや大掛かりな作業に対応できる力」に注目する。

 「マナビジョンは、2000年代前半に開設したWebサイトで、私たちでは判断できないレガシーな部分が多く残っていました。社内チームだけで改修するのはハードルが高く、ソースコードの一部を変更することで全体のどの部分に影響が及ぶのか、私たちだけでは判別できず課題となっていました。

 そこでTDCソフトさんに相談し、ソースコードを解析してもらいました。サーバ負荷やメリット/デメリットを整理して改修案を提案してもらい、モダンなフレームワークで修正版のリリースにこぎ着けました。専門的な部分も含めて迅速に対応してもらえた結果、メンテナンス性も向上しました」(和田氏)

 梅村氏も同様に、伴走支援のパートナー選びの重要性を強調する。

 「性能改善だけではなく、的確なアドバイスを提示してくれる点も大切です。TDCソフトさんには、技術に特化した『マイスター』と呼ばれるスペシャリストが存在します。コードやセキュリティに詳しいマイスターの的確なアドバイスはとても参考になりました。パートナー選びにおいて、私たちにはない視点と技術を提案してくれる点はとても重要です」(梅村氏)

 TDCソフトは現在、ベネッセの業務支援を「小中事業領域」と「高校事業領域」の2チームに分けて担当している。システム開発部門全体でTDCソフトのエンジニア約50人が関わる体制に拡大した。人数が増えてもフレキシブルにチームを分け、難易度が高いと思われた新しいシステムの開発でも1カ月後には体制が整ったという。

何のための内製化、アジャイルなのかを考えるべし

 ベネッセがビジネスアジリティーを高めるための内製化に取り組み続けて約4年。同社のシステム開発の現場にはどのような変化が起こったのだろうか。梅村氏は「アジャイルな文化の浸透は社内でも歓迎され、上層部の理解も広がりつつある」と成果を語る。

 「より臨機応変な体制を築く必要がありますが、ミライシードの運用は安定しており、アジャイル開発の動きが全社で活発化しているのも目に見えて分かります。何より、1カ月に1度のペースで改修版のリリースを続けられたことから、学校の方々にも喜んでいただけました。

 2024年3月には、NEXT GIGA(※1)への対応を視野に入れたミライシードのアップデートを発表しました。今回のアップデートでは、TDCソフトさんには基本設計よりも上流の要件定義から参加してもらいました。UI/UXもこだわり、TDCソフトさんのアドバイスを基にメニュー動線を大幅に変更しています」(梅村氏)

※1:2024年度以降に多くの自治体で迎えるGIGAスクール端末の更新時期のことを「NEXT GIGA」と表現

 内製化に向けたベネッセのロードマップはまだ続いている。どのような点に留意して開発することが肝心なのだろうか。

 「内製化するには、システムやチームの在り方を知ることが大事です。その上で、機敏に開発を進めたいという目的に向かっているならば、必ずしもアジャイル開発でなくてもいいと思います。いずれにせよ人手は絶対に足りなくなります。信頼できるパートナーと早い段階から関係を構築し、一緒に成長していくスタンスを創り上げることが重要だと思っています」(梅村氏)

 「なぜビジネスアジリティーを獲得し、改善のスピードを上げてリリースする必要があるのか、という根幹の考え方や目的が大事です。ウォーターフォールにしてもアジャイルにしても、目的を満たせる開発手法を選択するといいはずです」(和田氏)

 内製化もビジネスアジリティーも手段でしかない。事業の目的に立ち返り、手段を選択した上で頼れるパートナーを選定することがビジネスの競争力を高める近道になるはずだ。

転載元:ITmediaビジネスオンライン
ITmediaビジネスオンライン 2024年05月30日掲載記事より転載
本記事はITmediaビジネスオンラインより許諾を得て掲載しています
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2405/30/news001.html

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