導入事例インタビュー

「アジャイルの“型”が体得
 でき、開発スピードも
 一気に上がりました」

H.I.F.株式会社 取締役副社長 CTO 東 万里子 氏(左)
H.I.F.株式会社 Assistant Manager 田中 敦 氏(右)

2023.06.23

H.I.F.株式会社 様

アジャイルの手法を積極的に取り入れ
AIモデルを接続した新たなWebシステムを
わずか3カ月でリリース

H.I.F.が提供するAI定性与信審査サービス「二十一式人工知能付自動与信審査回路」は、業界水準を大幅に上回る与信精度により、売掛金等の入金遅延や未回収リスクを安価に高い精度で予測する。このWebシステムの開発は、TDCソフトを開発パートナーにアジャイル開発で行われた。Webシステムの開発期間はわずか3カ月(AIモデル、プロダクト全体工程は別途)。しかも従来とは一線を画すマーケットポジショニングであり、要件も明確ではなかった。この困難なプロジェクトを推進した同社 取締役副社長 CTOの東 万里子氏と、プロジェクトの途中から参画し、現在はスクラムマスターとしてプロジェクトを支える同社 Assistant Managerの田中 敦氏に話を聞いた。

導入前の課題

  • プロダクトのコンセプトや規模に対して、開発メンバーが不足していた
  • 仕様が未確定の中で新サービスを開発していく必要があった
  • 従来もアジャイル的な開発を行っていたが、体系立てた取り組みになっていなかった

導入後の成果

  • TDCソフトの参画によりチームにスクラムマスターと開発者を補充できた
  • Webシステム化プロジェクトのキックオフからわずか3カ月で新サービスをリリースできた
  • アジャイル開発を体系立てて習得でき、自社でチームを回せるまでに成長した

新サービス開発にあたり人員不足が課題に

 H.I.F.は、独自のAI定性与信を強みに、決済代行事業や売掛金保証事業などを展開するBaaS(Banking as a Service)企業である。AIと金融の両方に軸足を持ち、金融事業で取得したデータを活用してAIによる分析精度を高めている。「二十一式人工知能付自動与信審査回路」に続き、2023年3月には「ベンチャーデット保証」の提供を開始。AI与信審査を用いたスコアリングによる融資保証を可能にし、金融機関によるベンチャーやスタートアップへの融資促進を図る。AIを活用した同社の強みをH.I.F. 取締役副社長 CTO 東 万里子氏は、「財務の専門家が財務諸表を確認しても、あくまでその人の見解であり、それが確実に正しいかどうかはわかりません。それよりは、過去の膨大なデータを活用する方が、より高精度かつ網羅的に予測可能です。AIを活用することで、人が張り付いてデューデリジェンス(投資対象の価値やリスクの詳細な調査)をするよりも、安価に迅速に高精度な分析が可能になります」と語る。 

 同社はFintechベンチャーとして新たなサービスを次々と開発してきたが、現在同社の看板サービスとなっている前述のAI定性与信審査サービスの開発プロジェクト(2021年9月スタート)において、開発メンバーが足りないという課題に直面した。そこで、以前から金融関連のシステムを委託し取引があったTDCソフトに参加を依頼。一緒に開発に取り組むこととなった。「TDCソフトは金融系にも強く、以前のプロジェクトでも安心してお願いしていました」(東氏) 

不明確な要件を形にしやすいアジャイル開発を選択

 AI定性与信審査サービスの開発にあたり、TDCソフトから提案されたのがアジャイルである。提案を聞いた東氏は、ぜひやりたいと答えたと次のように語る。「当社は小さな会社ですが、金融会社とのやりとりが必須なので、高い要求に応える必要があります。そこで、高い技術力を持つTDCソフトの開発手法を取り入れられることは非常に魅力的でした」

 東氏は前職ではウォーターフォール型の開発に従事していたが、H.I.F.のような新事業を生み出すベンチャーにおいて、初期に仕様を決めるウォーターフォールの開発手法は向いていないと感じていた。そのためTDCソフトの参加以前から、細部にこだわらず動くモノを作り、確認と修正を繰り返すというアジャイル的な開発は行っていた。「ただ、アジャイルの進め方を体系立てて整理できていなかったため、もっと良いやり方があるのではないかと悶々とすることが多かったです」(東氏)それが、TDCソフトが入ることで「きっちりとしたアジャイル開発文化の型ができて、開発スピードも上がりました」と評価する。 

 この開発が始まった頃に入社し、その後プロジェクトに参加したH.I.F. Assistant Manager 田中 敦氏は、初めて体験したアジャイルの印象を「明確になっていない要求を、TDCソフトがプロトタイプを作ることで、イメージを固め、要求を明確にすることができました。初めから全ての仕様が出揃わないケースで、形にしやすい手法だと思いました」と語っている。東氏も「需要が明確でないが壁打ちをする素材が欲しいといった場合にも向いていると思います」と語る。 

高い技術力とチーム力により、
参画からわずか3カ月でWebシステムをリリース 

 アジャイルの実践において一般的なフレームワークであるスクラムでの開発を始めるにあたり、プロダクトオーナーとして東氏、TDCソフトからスクラムマスターが1名、開発者が5名参加。その後田中氏が参加し、1週間スプリントでサイクルを回すことで、かなりのスピードで開発が進んだ。1週間スプリントでの進め方について田中氏は、「サイクルが短く少しずつ機能を追加していくので、目に見えて進捗がわかり、軌道修正も容易です。試行錯誤がしやすいと感じました」と語る。 

 その後開発体制を強化。田中氏に加え業務委託メンバーも増え、3カ月後の2022年1月にはベータ版としてサービスをスタートできた。3カ月で開発できた理由を東氏は、「TDCソフトさんと我々との距離が近く、必要に応じて随時相談が来てすぐに判断するという体制ができていました。毎朝開発のミーティングを行っていて、タスクを組み立てるスピードが速かったこともあると思います。とにかくチームの結束力が高いと感じました」と推察する。なお、このプロジェクトで初めてアジャイル開発に参加した田中氏だったが、この間にノウハウを吸収。現在はスクラムマスターとしてチームをフォローし、日々実践し続けている。 

 TDCソフトの開発力について田中氏は、「TDCソフトの皆さんは全員レベルが高いのですが、特に驚くほど優秀な若手の開発者がいて衝撃でした。スクラムマスターも非常に優秀で、メンバーに対するかゆいところに手が届く配慮で、個性の強い開発者を上手くまとめ上げるチームの運営力に感服しました」と驚きを隠さない。東氏も、「TDCソフトのメンバーは何事も惜しみなく知見を提供してくれます。開発期間が3カ月しかなくこちらも余裕がなかったのですが、無理なことを言っても必ず何かを提案してもらえるので非常に助かりました」と評価している。 

 開発費用はそれなりにかかったと語る東氏だが、“長期的に見れば決して高くはない”と次のように語る。「スクラムを回す時の空気感や細かいテクニックを吸収させてもらったことで、自分たちで長期的にやっていける自信がつきました」。また田中氏も「過去に価格の安さだけで委託先を選び、きちんとしたものが出てこない、そもそも連絡もとれなくなるといった苦い経験をしてきました。TDCソフトはまったく違い、安定感、安心感が抜群でした」と評価している。 

開発を通じてより一体感のあるチームへと変化

 今回の開発では、TDCソフトのサポートによりフレームワークとしてNuxt(ナクスト).jsを採用。当時社内でNuxt.jsを活用した開発事例は少なかったが、その結果短期間でメンテナンスをしやすい環境ができた。また、AIモデルをSaaSに接続するなど、開発時点からかなり先進的な取り組みを行ってきた。 

 今回のプロジェクトの最大の成果は、これらの新技術を活用しながら短期間でサービスをローンチできたことだが、その他の効果として東氏は開発における新たな文化の醸成と、スクラムマスターとなった田中氏の成長をあげる。「これができたのは、TDCソフトが文化を創ってくれたことが大きいと感じています。文化ができたことで業務委託者との連携が強くなり、立場に関わらず全員で同じミッションを追えるようになって、定着率も大きく上がりました。その結果開発スピードもアップしました」(東氏) 

 TDCソフトの全社的な対応力について東氏は、「営業と開発チームの連携が良くない企業は割とあって、過去に苦労したこともありました。しかし、TDCソフトは開発と営業が一体となって、常にワンチームとして提案してくれるので信頼感があります」と評価している。 

 同社は複数の開発プロジェクトをTDCソフトと経験し、確実に社内にアジャイル開発に対する知見や経験を蓄積してきた。そのため現在は社内中心の開発体制へとシフトしつつある。しかし、今後のTDCソフトとの連携について東氏は、「関係を完全にゼロにするのではなく、困ったときに相談できるような関係を維持したい」と期待を語った。 

まとめ
H.I.F.の開発メンバーは、少数精鋭ながらベンチャーらしく、新しい技術や手法に対して臆することなく果敢に挑戦し続けている。東氏が、「どんどん新しい技術を取り入れる社風があります。おそらくTDCソフトにもいろんなことを試せる実験場と感じてもらえているのではないか」と語るとおり、アジャイルにも、新たなフレームワークの活用にも、試す価値があると思えば迷うことなく取り組んでいる。このような同社だからこそ、次々と意欲的なサービスをリリースし続けているのだろう。
H.I.F.株式会社
2017年11月、大手旅行会社H.I.S.の社内ベンチャーとして誕生したBaaS(Banking as a Service)企業である。独自のAI定性与信を強みに、「二十一式人工知能付自動与信審査回路」、「ベンチャーデット保証」など、意欲的なサービスを提供。同社が提供するこれらのサービスは、資金調達のハードルが高く、入金遅延や未回収リスクも高くなりがちなベンチャー・スタートアップの成長を促し、ひいては日本経済の活性化につながるはずだ。
使用したテクノロジー
アジャイル
実践的なノウハウやSAFe®︎などを活用し、お客様のチームやプロセスをアジャイルに変革。世相に対応し、一体感を持った俊敏で柔軟な組織づくりを支援します。
Read more
アジャイル

関連記事

error: Content is protected !!